0人が本棚に入れています
本棚に追加
車が湖に到着するとグレーの空は少し紺色の雲がかかってきた。次第にオレンジと紺のグラデーションに変わっていく。二人は遠くから聞こえる鳥の声と、虫の鳴き声を聞きながら湖のほとりにあるベンチに腰を下ろした。
コウダイはジーンズのポケットからipodを取り出すとアヤの耳に片方のイヤホンをつけた。サンサーンスの「白鳥」が聞こえる。
「綺麗ね」
「たまにこういう場所に来るものいいもんだな」
「ええ」
「今、白鳥が見えなかった?」
「そんなのいないわよ」
「そうだよな…」
時折魚が跳ね、水面に綺麗な模様ができる。
「あれ…魚だね。水の模様…綺麗だけど、俺たちに見せてくれているのかな…」
「そんなわけないじゃない」
「音楽もさ、全ての人が誰かに聴いてもらえるとは限らないんだよな。でも、誰かに聴いてもらいたいと思うことって大事なことだと思うんだ」
「だったら、この魚は、この綺麗な水面の模様を見てもらいたいって思ったってこと?そうだったら妖精か何かかも」
「妖精か…水の精みたいなことを言うな」
「それって…気になっていたんだけど、水の精って前から言ってなかった?」
「ああ、俺の祖父が言ってた話でさ。じいさんは有名な指揮者だったと前にも話しただろ?音楽を極めていたと言っていい。そのじいさんから俺は不思議な話を聞いたんだ。それが水の精の話ってわけ」
「お爺様がなんて?」
「親父は忙しくお袋も俺の相手をなかなかしてくれなかった。だからじいさんは良く俺に色々な話をしてくれた。そして俺に言ったんだ。お前も水の精に会えってね」
「どういうこと?」
最初のコメントを投稿しよう!