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第7章 叔父の日記
アヤは自宅で母とハーブティを飲んでいた。バーコード先生の奥様がじきじきに持参してくれたらしい。母と奥様は気が合うのだろう。二人とも似たタイプだ。アヤはクッキーを口に入れながら母に言った。
「ねぇ、ママ、音楽のさ、水の精って知ってる?」
「何それ?あなた勉強のしなさすぎで頭おかしくなっちゃったんじゃない?」
母は笑ってそう言った。
「失礼だなぁ」
アヤはむっと口を尖らせる。
「あれでしょ?昔伝説があるって聞いたことがあるわよ。有名なチェリスト、カザミス・コーナースの話。彼は水の精霊だったって物語でしょ?チェロの神様だっていう説もあるし」
「なるほどね、それって白鳥の羽が舞い降りてきたってやつ?」
「そうそう」
「ほんとにあると思う?」
「物語に決まってるでしょ、バカなこと言ってないで。勉強しなさい。テスト近いんでしょ?受験勉強だってしてないし、こんなんじゃ芸大なんてとんでもない話よ」
母はキッチンへ向かうと鼻歌を歌いながら食器を洗い始めた。
「そうよね…バカなことよね…」アヤはクッキーを一つ手に取ると席を立った。
明日は学校で文化祭の準備をしなくてはならない。今度の出し物は「仮装行列」だった。アヤたちの仲良しグループは「インディアン」になる。誰が決めたのか、顔を濃いファンデーションで塗り、紙粘土で作った「骨」を首から下げる。そして折り紙とストローで羽を作り、頭に飾る。そこまでは出来上がっている。後は肝心の衣装だけだ。布を持ってくるのはアヤの担当だった。
「ねぇ、ママ、布なんかが閉まってある箱ってどこ~?」アヤは大声で叫ぶ。
「2階の奥、クローゼットの中よ、上の方に閉まってあるわ」
アヤは2階へ上がり、まっすぐにクローゼットへ向かった。廊下にあるクローゼットの周辺は全く日が当たらない。薄暗く少し陰気な雰囲気が漂っていた。クローゼットのドアを開くと目の前にゴルフクラブがいくつも並んでいる。父のものだ。大して上手くないくせに道具だけは高級だ。ゴルフクラブをいくつか引っ張り出し、アヤは中へ入った。引っ越してきたばかりなのに埃はあちこちに舞い上がる。
「ったくもう、ママ掃除しなさいって」
アヤは独り言をつぶやきながら布の入った箱を探した。すると頭上から一冊の本が落ちてきて彼女の頭にぶつかった。
「痛~い」
その分厚い本は日記帳のようだった。アヤは手に取り、ページをめくる。
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