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数日後、アヤの元に先生から連絡があった。先生は楽団のレッスンをしばらく見なくてはならないとのこと。2ヶ月間個人レッスンはお休みしなくてはいけないとのことだった。その間、プロである、渡辺コウダイさんが個人レッスンを見てくれるらしい。先生はいつものように「毎日きちんとレッスンしてくださいね」とつけ加えた。「才能があるんだから」これも口ぐせだ。見掛けは黒ぶちメガネのバーコードだけど、先生はとてもいい人だ。アヤは先生が大好きだった。
その日からアヤは毎日練習をするようになった。2ヶ月間の彼のレッスン。あまりに下手だと恥ずかしい。そしてもっと上手くなってコウダイさんを驚かせてやろう…そう考えるようになった。彼に見てもらうレッスン。少しだけリップクリームを塗り、指に豆ができるほど練習し、コロンをほんの少しつけて出かけた。
レッスンは時間通りに始まり、時間通りに終わる。その間、私語はほぼ一切なかった。自宅でのレッスンを毎日行うことによって指は固まり変形してきたが、何より音を自然に奏でられることができるようになった。
「サンサーンスの白鳥、映像として想像できます?美しすぎる世界って想像に限界があるような気がして」
アヤはふと彼に尋ねた。
「確かに、映像なんかじゃ感じられない、空気感みたいなものも感じるだろうしね…あ、水の精って知っていますか?」
「いいえ…」アヤは目を丸くした。
「それは…何ですか?曲名?」
「いや、知らないならいいんです」
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