第一話 入学式は波乱の幕開け

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 伊豆南(いずみなみ)高校は、静岡県伊豆半島の南の田舎町の山間にある、全校生徒720人程度の県立高校である。1クラス定員40人の難解大学への進学コースで理数系科目に特化した理数科が各学年に1クラスずつ、他に1クラス定員40人の一般的な普通科が各学年に4クラスずつある男女共学の高校だ。数年前までは同じ町にもう1つ県立高校があったのだが、少子高齢化の影響を受けて廃校、現在の伊豆南高校に吸収合併された。  伊豆南高校は部活動も盛んである。バレー部、テニス部、陸上部、サッカー部、卓球部、野球部、ゴルフ部、水泳部、剣道部、弓道部などの運動部系が多数。そして美術部や、手芸部、吹奏楽部、科学部、パソコン部、文芸部、料理部などの文化部系も同じように多い。運動部系は様々な大会に出場経験と実績を残し、その部活に入部することを目的として、この高校に進学してくる生徒は珍しくない。  塚原明香里(つかはらあかり)もまた、とある部活に入部することを目的に、この学校に進学した一人である。  2016年4月上旬、この日の天気は朝から雲一つない快晴。風も少なく、暖かい春の陽気が心地よい。その心地よさのせいなのか、それとも別の理由があるからなのか、今日の明香里は朝から機嫌がとても良かった。その別の理由があるとするのならば、おそらく今日、明香里が伊豆南高校の入学式に新入生の一人として出席するからだろう。明香里はこの日が来るのをずっと待ち望んでいたのだ。  朝、目覚まし時計が鳴るよりも早く目が覚めた明香里は、自分の部屋のクローゼットを開けて、大切にしまってあった衣装ケースを取り出して、自分のベッドの上に置いた。そしてなぜか深呼吸をして息を整えた後、唾をゴクリと飲みながら衣装ケースをゆっくりと丁寧に開けた。そのケースに入っていたのは、新品の伊豆南高校の女子用の制服だった。その制服を手に取った明香里は、ギュッとその制服を胸に抱きしめ、今日から高校生になることを肌で感じた。  その制服一式を着た後、明香里は自分の部屋に置いてあるスタンド鏡の前に立ち、マジマジと自分の今の姿を見た。
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