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僕はふと、足を止め、彼女の姿を見た。風が彼女の髪の毛をふわりと揺らすと、彼女の縁石に足を置いたまま、立ち止まった。
彼女は僕の方を振り返らずに、空を見上げ、
「わたし、部活辞めることにした。」
突然、口を開いた。
僕は、やっぱりな、と思うと同時に胸の奥が少し──いや、かなり痛んだ。
「そうか。」
そう言って、ただ頷くことしかできなかった。
しばらく沈黙が続いた。
彼女は、僕が所属するサッカー部のマネージャーだった。
気はやけに強いが、明るく優しい彼女はいつも、僕ら選手を励ましたり、叱ったり、応援してくれた。
晴れの日も、雨の日も、嵐の日も、僕らよりも大きな声を出し、一番近くにいてくれたのが、彼女だった。
僕が監督に怒鳴られた時も、試合に負けて落ち込んでいる時も、彼女は「がんばれ」と、いつも背中を押してくれた。そんな彼女のことが僕は……
──大好きだ。
心の中で彼女に叫ぶこの声は、はたして彼女に届いているだろうか。
「やっぱりわたし、夢は諦めたくない。」
彼女はとても澄んだ瞳で、僕を見た。そのまっすぐな目を見るだけで、彼女の決意が嘘偽りのない、本物だということが分かる。
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