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僕は必死に笑顔を作って、彼女に言った。
不器用に持ち上がった僕の頬に、涼しい風がピリピリと電気を帯びたようにぶつかる。その笑顔を見た彼女はしかし、笑わなかった。
僕の顔をじっと見ながら、何かを必死に考えているようだった。
自分を勇気づける言葉を探しているのか、僕を慰める言葉を選んでいるのか、よくわからないが、彼女は何か大事な言葉を必死に拾い集めようとしているようだった。
彼女は何かを言いかけては口を塞ぎ、何度かそれを繰り返したが、やがて下を俯き、小さく口を開きながら、 「──ありがとう。」と、一言だけ呟いた。
「うん……。」
僕は頷く。
暗闇の中に見える、街灯に照らされた彼女の顔は、少し頬が紅く染まっているような気がした。
縁石に乗った、少し高い位置にいる彼女に、僕が無言で笑いかけると、彼女はそれを受け止めようか戸惑うように顔を伏せた。それから、ぴょこっと縁石の上から地面に飛び降りた。
ふわり、と彼女のスカートが揺れる。
「今度は──」
そして、僕の視線よりかなり低い位置にある彼女の目が僕の方へ向いた。
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