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【2】
「今日は皆、輝いてるね」
三重県の海をバックに、美味しいビールと伊勢の幸に舌鼓を打ちながら、読者モデルの子三人を撮影する開放感は格別だ。ゴミゴミした都会では味わえない。
しぎさん、ほたるん、櫻子さんの三人は作家の友人の本市くんがする小説講座の教え子さんだけど、彼は船酔いして、船室で延びてるから、僕の出番と言う訳。
バスでも電車でも自動車でも酔いやすい体質なんだよね。
ただこれが、普通の撮影ならもっといいんだろうが、三重県の沖島で収容所の患者が消えた事件があったから、かず刑事の婚前旅行に付き添う筈が事件の同行取材になってしまった。
だからこうして三重県の海を満喫出来るのは今の内と言う訳。
「ホンノンさん、ご飯食べないの?」
黒と茶色のチェック模様の服を着たしぎさんが本市くんに訊ねた。しぎさんは長い髪を束ねて肩の方に出して秋っぽくしている。
「おじさま?」
肩まである金髪にキャメルカラーの服のほたるんが続く。
「市さん、ご飯美味しいですわよ」
さくらこさんも。だが、本市くんは返事をしない。今回は捜査の協力を求められているのに大丈夫かな。と思ったその時、勢いよく船室を開けて「誰か助けてくれー」と飛び出して来た!
「蜘蛛が、蜘蛛が、蜘蛛が背中に張り付いた! 誰かとってや!」
教え子三人を鬼ごっごみたく追い掛ける。
「蜘蛛くらい自分でとれよ」
「何故に蜘蛛!」
「だめですよー!」
しぎさん、ほたるん、さくらこさんは蜘蛛の子を散らすように甲板をばたばたと逃げ回る。
「荒木くん、蜘蛛をとってくれ」
本市くんはそう言って僕に背中を近付けて来た......僕は虫全般が、超苦手なんだけど。
「虫は厭だああああ!」
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