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僕は戦場、被災地と色んな所を取材して来た。
地雷だらけのアフガニスタンや、銃弾が飛び交いまくるシリア、あちこちで爆破が起こるエルサレムや、大規模な報道があった北朝鮮。
取材の過程で度胸は付いた筈なんだけど、虫だけは嫌いなんだよなぁ。
特に蛞蝓。虫の癖になんで手足がない? 羽もない? それに虫って小さい虫とか植物とか花の蜜を食べる生物なのに、なんで垣根の岩を食べてるんだ。それに殻に入ったら蝸牛って、訳が判らない。蝸牛と蛞蝓の違いはなんなんだ。これは虫的に偽証だ。経歴詐称だ。
それにどうして塩でしぼむんだ。生命体にとって塩分は必要な筈だ。この疑問に本市くんは砂糖をまぶしたら逆に糖分で肥えるのか実験したけれど、何も起こらなかった。
これまでに、セアカゴケグモが都心部に目撃されたこともあったけど、そういうわけで僕は虫関連の取材はいけなかった。
「二人とも何はしゃいでるのよ」
かず美さんが運転席からこちらにやって来た。
今日のかず美さんは、肩のボタンを外した白のセーターに黒のパンツを合わせたラフ&ポーンのスポンテニアスな服装だ。業界用語になっちゃったけど「自発的」て意味の価値観に捕らわれない自由な着こなしのこと。普段は制服のうえにライダースーツのかず美さんなだけにギャップあるけど、秋から冬にかけて2way3wayと着回しが出来そうだ。
「む、む、虫が」
「虫ぐらいで騒がないのよ」
かず美さんに続いてやって来たかずさんは本市くんの背中に付いた蜘蛛を取り上げた。
かずさんは、紺色のワンピースに背中を開けて紐で結ったエレガントな印象のあるスタイルだ。普段はデニムにタンクトップ、制服のスーツは腰にまいた所謂カズアルな服装なかずさんだけど印象が違う。まあ、本来なら今日の主役だもんね。
「助かった。でもこう言う時って、かずさんのダーリンが『かず子に虫を触らせるわけにはいかない』って取るもんじゃと思うけど」
今日はかずさんのダーリンと言うか、フィアンセの海街隆司くんも一緒。と言うか婚前旅行なんだからいるの普通なんだけど、素敵なハニーを前に何してるんだろう。
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