やさしい恋をして

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 結局その手を振りほどけないまま、目的の映画館についた。思っていた程、誰も気には止めていないようだった。  チケットと飲み物を買って映画館の中に入る。  映画を見る時、淳はポップコーンを買わない。ポップコーン自体は嫌いではないが、ずっと持っているのが邪魔だし、食べている自分の音が気になって映画に集中できないのだ。  皆川もポップコーンを買うと言い出さないところから、同じような考え方なのかな、と少し嬉しくなる。  席は真ん中。  場内が暗くなるまで、これから始まる映画の話をする。  R12指定のゾンビ映画で、以前から二人共楽しみにしていたものだ。女性には中々誘えない映画だ。いつも一人で見に行っていたので、二人で見て感想を言い合えるのが新鮮だった。  皆川とは休みが合えば、こうして映画を見たり、穴場なラーメン屋を探してみたりする。  よく言えばデートを重ねているとも言えるし、悪くいえば、好きだと言い合う前となんら変わらない。  少し変わったのは触れる程度のスキンシップ。  今も暗くなった途端、淳の左手に皆川の手が添えられる。  クーラーが程よく効いていて、温もりが心地いい。  それが物足りない、と感じてしまう自分がいる。
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