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欲張りになってはいけない。十分幸せで、これ以上何を望むのだろう。
同性を好きになってもいい、と受け入れてくれる人がいる事の安心感は何にも代え難い。
(失いたくない)
映画の始まりを告げる音楽が流れる中、淳は強く思った。
「吉岡さん、僕の家に寄って行きませんか?」
映画の後にダイニング居酒屋で食事を済ませ、ほろ酔い気分で駅に向かっていた。
皆川の家には淳は一度も行った事がない。
初めての誘いに、ドキリとした。
「い、いいんですか?」
「もちろん。もう少し一緒にいたいので。明日、吉岡さんもお休みですよね?」
「はい」
「知り合いから貰ったワインがあるんですけど、一人だと開ける事がなかったので、良かったら一緒に飲みましょう」
淳はうなづいた。
何気ない、皆川の「一緒にいたい」という言葉に胸が熱くなる。
触れたい、と思った。
けれど、人ごみの中で淳には触れる勇気などない。
世の恋人たちが、腕を組んで街中を歩くのはこういう気持ちなんだ、と理解した。
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