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荒廃した場所───
草木も生えていない土塊だけの殺伐としたその場所を、人の行き交う通りが一筋ある。
両端を土壁の削り採られた断崖に挟まれた【道】と呼ぶそれは、その先へと続く都への幹線道。
この【地】の中心地・王都クローバーへ向かうための道だ。
王都クローバーの周囲は土塊で出来た岩山と乾燥した大地のみだが、王の玉座を構える王宮のある都には、この【地】の四方から人が集まり、物が溢れて、色とりどりの花が咲き、小鳥が楽しげに歌う。
【オアシス】のような存在である王都に人は希望と期待、願望と平穏を抱いて【地】のあちらこちらからやって来る。
王都に向かう【道】は四方八方から幾つもあるが、都に通じるための【道】は小さなものから少しずつ集結して最後には1本の大きなものへと変わる。
都の入口へと続く唯一の【道】が土壁に挟まれたこの通りだ。
辿り着くまでに半日以上掛かってしまう程長い【道】は昼は太陽に照らされて暑く、夜には吹き抜ける風が冷たく人々の体力を奪ってしまう。
王都に荷を運ぶ者は旅支度を怠る事なく幌付きの荷馬車や家畜に乗り、麻編みのコートや絹のローブ等で体を覆って早足で進む。
間違っても一人で夜営などしないのが旅人の暗黙のルールだ。
何故なら、当たり前のように積み荷や金品を狙って盗賊が出没する通りとして有名だからだ。
片田舎から王都に出向く者等『金持ってます!』と張り紙着けて歩いているようなもので、『狙って下さい』と告げていると岩肌の陰から賊は舌舐め摺りをして待ち構えている。
天気の良い日光の降り注ぐある日の真っ昼間に、この【道】を一人の旅人が黙々と歩いていた。
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