340人が本棚に入れています
本棚に追加
/716ページ
水車小屋の中に冷たい風が隙間から吹き込んでくる。
焚き火を焚いていても寒さは拭えず、麻布を羽織っていても体は冷える。
そのためだけではなくリョクシは両腕を突っ張って膝の上で拳を握り、体を震わせて泣く。
ナルはクロウに引っ付いて麻布の隙間を埋めるようにして体を丸めた。
「ふ~ん……綺麗な目だね」
重たく塞がる瞼をしばたたせながらにっこりと笑顔を覗かせた。
「僕たちの事は気にしなくていいよ、仕事だからね」
「そうだな、初めから[水の瞳]は見えてたし、賊に襲われる事も想定内だ。プレアで調べて分かっていたんだ、大した事じゃない」
「そんなっ! 怪我までされてるのに!」
「怪我くらい何処でだってする。それに、俺たちは村に送り届けるだけだ。それが仕事として引き受けた依頼だ。村を助けるのはお前の[仕事]、その為に帰って来たんだろ?」
クロウの溜息混じりの言葉はリョクシの鼓動を高鳴らせた。
顔を上げて直視する二人の姿は何処か疲れているようで、ナルはクロウの腕に凭れ掛かって眠りにつきはじめている。
「うん、そうそ……頑張ってねリョクシ……」
そう言うと目を閉じてしまった。
クロウは「やっと寝た」と呟いて、自身も大欠伸をした。
「……申し訳、ありません」
俯き、涙を拭うリョクシがぼやく。
「構わねぇって……ま、頑張るのはリョクシだからな。[お言葉]はリョクシに向けられた。お前は何も出来ないわけじゃねぇ。何かしたくてちゃんとここまで帰って来たんだ、ただ逃げたんじゃねぇよ」
クロウが珍しく頬笑んで優しく言葉をかける。
隣で眠りについたナルを起こさないように気遣っているだけかもしれないが、リョクシには暖かく響く声だった。
最初のコメントを投稿しよう!