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真っ白な場所────無機質で何もない、ただ白く隔たれた壁で遮られた箱の中に澄んだ美声が静かに響く。
銀色の滑らかな髪が顔にさらりとかかるその者は、見知らぬ唄を奏でながら、長く伸びる美しい後ろ髪を右肩に纏めて3本に分けて、しなやかな細い指で弄ぶようにくねらせて編んでいた。
白い壁の高い位置にある、鉄の丸棒が5本並ぶ枠だけが外を窺える。
三方を壁、残る一方は鉄の丸棒で塞がれた鍵穴のない扉の付いた格子という閉鎖された箱の中で、[彼]は楽しそうに枠のある壁に凭れて鼻唄を唄っていた。
他に人の気配はない。
────カシャーン……という金属音が響き、鼻唄が止む。
コツコツと磨き上がる床に人影とともに靴音が鳴り、近づく音の方へ視線を軽く投げ掛けた。
「罪人、千珠、出なさい」
髪を撫で付け、真っ白な詰め襟の長い服を着た男が格子の前で厳しい声音を発して鍵の無い扉に手を翳した。
扉はガチリと重い音を発てて開かれ、中にいた[罪人]は
「ふっ……ふふふ……もう会いたくなったのかなぁ……ふふふ……」
と嘲笑しながら、編み上げた髪先を摘まんで揺らし、ゆっくりと立ち上がった。
灰色の足首まである1枚布を緩く羽織り着て、麻編みの草履を履いた足を擦りながら、ニヤリと歪めた顔を持ち上げる。
銀色の首まである前髪から覗く黄金の瞳に薄く艶のある唇……女性と見間違うほどの美貌が妖しく、目の前の男を睨み付ける。
ゾッとしながらも男は罪人の両手に鉄の錠を嵌め込み鎖を手にして引き連れ、箱を出た。
箱の外は陽射しも眩く、青く澄み航る空の広がる美しい世界。
白く中世的な建物が規則正しく建ち並ぶ、白い世界があった。
罪人は男とともに白1色の敷き石の上を、中心部に存在を発する一際大きな建物へと進んだ。
ジャラジャラと鳴る鎖を気にする事なく持ち上げ、体を伸ばして外の空気を味わい、喜びを露にして天を仰いだ。
「何日振りかな……」
罪人は笑顔で何事でもないように散歩を楽しむ。
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