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中心部にある建物はまるで神殿のように大きく、太く丸い柱の奥に来る者を拒む女神の彫刻が施された大きな両開きの扉が聳える。
その傍には白い布を頭から被り顔を隠した者が扉1枚に一人立っていた。
男と鎖で引き連れられた罪人が前に進み立つと、その者達によって扉はゆっくりと静かに開かれる。
だだっ広い、埃1つ無い広間に靴音を鳴らして真っ直ぐに奥へと入る。
数メートルほども高い天井……絹の垂れ幕の下がる飾り枠の付いた壁……壁の側に天井を支えるように立てられ均等間隔に並ぶ円柱の影には、鈍い光を放つ槍を携えた詰め襟の男達……無音だったその室内に靴音とジャラジャラと鎖の音が反響する。
罪人は腰まで垂れる銀髪を揺らし、退屈そうに欠伸を漏らして周囲の影を盗み見た。
「座れ」
室内の真ん中まで来ると男は罪人に指示を下し、大人しく腰を降ろす様を見届けてから正面に向かい片膝を着いて頭を下げた。
「罪人・[銀糸]の千珠を連れて参りました」
「ご苦労……下がれ」
鏡のような床から続く広く弧を描いた階段の端にぽつんと立つ老人が男に告げると、男は一礼をしてその場で鎖を手放し円柱の影へと姿を隠した。
「何の用?僕これから昼寝の時間なんだよね」
「勝手に口を開くでない!帝の御前にあるぞ!」
「あはははは……帝だって!久し振りだよねぇ~……会いたかったよ。残念なことに武具は出せないようにされちゃってるからさぁ……あんたに何もしてやれないんだ」
「静かにせんか!口を開くなと言っただろ!」
罪人・千珠は制止する老人を無視して高笑いをし、手錠された両手を嘲るように見せびらかして振り、黄金の瞳を階段上の先に鎮座する者へと冷たく刺さるように向け続けた。
焦る老人の背後から言葉もなく片手で一文字を描いて見せ、戸惑い、一礼をして老人が控えると、壇上に鎮座する者は重々しく声を発した。
「銀糸の千珠、己に新しく刑を言い渡すため呼んだ……暫し待たれよ」
千珠はすっと表情をなくし、その者を冷めた目で直視し続ける。
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