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透けた垂れ幕が幾重も天井からさがる。
正面に鎮座する玉座は何人もが座れそうだが、[帝]はその中央に背筋を伸ばし、片足だけを降ろして腰掛けていた。
白い布で全身の肌を隠し、襟から裾、袖口に金の刺繍を施した艶のあるローブを纏い広げ、宝玉のような緑色の瞳が感情もなく前を見詰める。
白い中にあって、ただ赤茶色いストレートなその髪が存在を際立たせていた。
「新しい……刑?軽減してくれるの?」
「───己らにとっては、そうかも知れん」
「ぷっ……ふふふ……そう……ふふふ……」
千珠は蔑む目で帝を眺め、嘲笑し続けた。
渇いた笑い声は室内に薄気味悪く響く。
その時、後方で再び入り口となる扉が開かれ、千珠の時同様、ジャラジャラと鎖の音とコツコツと歯切れの良い靴音が入ってくる。
ただ、鎖の音は1本のものではなく、複数の音が重なって届いた。
千珠は笑う事を止め、チラリと目を向けて静かに音を聞く。
「つ、罪人、白羽……お連れ致しました」
何処か躊躇いがちに召喚を告げる男に階段にいる老人は「下がれ」と静かに告げ、男は一礼をして素早く柱の影に控えた。
「……お座り下さい」
丁寧な柔らかい物言いで老人が手を差し出し、千珠の隣に座るよう促す。
後から来た罪人、白羽は大人しくその場に片膝を立てて座った。
千珠と同じ灰色の1枚布を身に纏い、両手足に鎖の付いた頑丈な鉄を嵌められ、口を鉄のマスクで塞がれていた。
赤茶色い癖のある長い髪は頭頂部で1つに纏められ、鼻に掛かる前髪の隙間から新緑の瞳が前方を直視して留まる。
千珠は隣人を横目にしても無表情で、小さく分からないように息を吐いて前に向き直った。
「───銀糸の千珠、そして……白羽、己らはこの白領にて死して償えぬ罪を犯した。侵入不可能な天帝の宮にて盗みを働き、天帝である私の命を狙ったのだ……それにより、己らは自由を失い、禁固される事としたが……」
「前置き長い!面倒臭い口上はいらないからさぁ、さっさと要件だけ言いなよ!」
「これっ!口を挟むでない!」
帝の言葉に千珠が抗議をすると老人が諌めるために声をあげる。
またも帝は片手で老人を制し、老人は苦々しい顔で頭を下げ、千珠に目を細めた。
その様に千珠は声を殺して笑う。
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