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薄暗い室内に入った旅人は、やはり心許なくビクつきながら壁伝いに二歩、三歩と動いた。
「なんだ、あんたやっぱりここに来たんだ」
「クロウが放り出したから連れて来てあげたんだよ」
少年たちが喋る傍らで青年が手際よく壁に備え付けられた燭台に火を灯して回る。
室内はほの明るい光に充たされ、暖かな雰囲気が漂う。
「さあ、どうぞ、お掛け下さい」
旅人の立ち尽くす傍の平台に、立て掛けられていた長椅子を降ろして青年が優しく促してくるが、旅人は警戒したまま動かなかった。
青年は気を悪くするでもなく、苦笑して奥へと向かった。
平台が並ぶ部屋から大きな窓枠のある壁の向こう側へと移動する青年を目で追う。
そこはキッチンのようで、その窓枠から奥に通路が見え、更に扉が一枚見える。
その先は暗くて判らないが、この建物は縦長に奥へと広いものだと知れた。
「放り出してねぇよ!時間がおしてたから降ろしたんだ!……ボードに二人はスピード落ちるんだ」
「同じ場所に来るのに?言い訳だよね」
「っ! 目的地まで知らなかったんだ!……発進してから、聞いたし……」
「ふ~ん」
からかうように笑うナルに、剥れた少年・クロウは反論出来ずジャケットから果実を取りだした。
その手にある果実に旅人は弾かれるように「あっ!」と声をあげ、二人に目を向けられてまたビクついた。
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