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「二人とも、少し落ち着きなさい。お客様の前ですよ」
柔らかな声で青年が二人を諌めながら再び現れた。
手に持つ盆には澄んだグラスに清らかな水が湛えられ、旅人の前に差し出される。
「どうぞ」
「あ、あの……私……私は……」
怯えて吃る旅人に青年は口調と同じ柔らかな笑みを浮かべて問い掛けた。
「王宮に、御用ですか?」
「は、はい!!私は、急いで王宮に向かいたいのです!」
「何故でしょう?よろしければお伺い出来ますか?」
「あ、あの、私は……王様に……王様にお会いしたいのです!」
切羽詰まった様で訴えてくる旅人に、青年はふと顔を曇らせた。
旅人は口にしてはいけない事でも言ったのかと不安に襲われ
「「無駄なのに」」
という次いで掛けられたため息混じりの声に驚愕し
「な……ぜ?」
と声を震わせた。
視線の先に呆れた様で平台に肘をつき果実を口にするクロウと、クスリと漏らしながらも手鏡を覗くナルが映る。
「王宮に王はいないからだ」
「もうずっといないよね」
二人は態度を変える事なく答えた。
「では……王様は、一体何処に……?」
呟く旅人に少年たちはチラリと視線を投げ掛け、その傍で佇む青年を見た。
旅人はその先を追って青年をすがるように見詰める。
旅人の傍らで立っていた青年は、宝石のような瞳を煌めかせて穏やかに言葉を吐き出した。
「この地の王はその存在を隠したまま、誰も姿を見た者はいないのです」
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