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明らかに落胆の色を浮かべて立ち尽くす旅人は震える手で背負う荷の肩紐を握りしめた。
「そんな……王都に……王宮に行けば……願いを聞き入れて下さると……やっと、ここまで……」
震える声で呟き項垂れる旅人をただ見詰めていた青年は、手にある盆を平台に置き旅人に向かい直した。
柔らかく暖かな甘い香りが旅人に触れる。
顔を上げ、潤んだ目を向けると、宝石のような瞳に見詰められて意識が霞む気がした。
「少しお時間を頂いて語りましょう……この地の昔語りを……この地の王の話しを……お聴き願いますか?」
ふと見せる笑みに旅人の震えが消え、青年から目が離せなくなった。
低く諭すような静かな声が頭を支配してくる。
白磁のような白く滑らかな青年の肌が、燭台の灯りに照らされて影を纏い妖しく映る。
額の真ん中で分けられた白金の髪から覗く薄い黄緑色の瞳の中に旅人は捕らわれた。
「この地はその昔6つの勢力によって混沌とした時代の中にありました────この地は力を持つ者とそうでない者、この2つの生きる者たちの住まう場所であったのです。
力を持つ6つの勢力種族は地を支配しようと歪み合い、争い、奪い合い続け、力無き民は巻き添えを余儀なくされ、日々怯え、命を落としてしまう暮らしを強いられていました。
当然のように力を持つ者がそうでない者を虐げ、人が人として生きる事が困難である時代、誰もが力を求め、誰もが力に怯えていました……地では争い合う6つの勢力の他にもう1つ、誰も手が出せず、というより誰も手が出せ無かった勢力が存在していました。
天と地の間に住まう勢力、人と交わる事のない種族、名を【綺風人】といい、彼らは神を崇め、神の加護を受け、神とともに生きる種族と話され、争いを嫌い、他の者と関わる事もせず、ひっそりと生きる者。
特異な力を持ち、地の民よりも長命……地上の誰もがその存在の異様さに畏れ、黙認していました。
地において争いが烈火の如く激しさを増したある日、1つの勢力が綺風人族に手を出したのです。
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