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石壁に囲まれ、等間隔に嵌め込まれた木枠の硝子窓に上品な絹の布地が垂れ、内と外とを遮断していた。
外は陽も落ち、暗くなっているだろう。
石壁に備え付けられた幾つもの燭台が温かな火を灯して揺れる室内に静けさが訪れる。
板床にへたり込んだ旅人の目は誰かが救いの声を発してくれる事を願って彷徨う。
クロウの深緑の瞳が黒みを帯びて僅かに伏せられながらも旅人から離される事なく、自身のジャケットのポケットから二個目の果実が取り出される。
「何故、レディ様にお会いしたいのですか?」
口に運ばれる果実から視線を外せなかった旅人は、傍らから問い掛けられる柔らかな声に弾かれて顔を向けた。
「……お話し頂けませんか?」
話す事を躊躇う様子の旅人に、尚も優しく問い掛ける青年の笑みは、旅人の心を微かに和らげ重い口が開かれていく。
「────私は……北の大地の最も奥にあります【アスパ】という名の小さな村から参りました……」
「アスパ村?」
「確か空気も水も綺麗な土の肥えた場所だね」
クロウとナルが口を挟むが、旅人は眉を下げ、悲しげな表情で二人に僅かな笑みを返す。
「はい……水も空気も澄んでいて、上質な作物の採れる豊かな土地です。ですが……3年程前のある時を境に水は枯れ、土地は干え、作物は育たなくなった」
「なんで? 北の地方は雪溶け水もあるし、雨季もあるだろ?」
「雨が降らないなんて聞いた事ないよ」
「……でも……それでも、水が、無くなったのです!」
俯き、膝の上で両手を握り締めて、旅人は声を荒げて体を震わせた。
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