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「じゃあ、君のそのケガはその賊にやられたの?」
ナルの何気ない言葉に旅人の体が跳ねた。
興味のない素振りで自身の身なりを整えるべく、埃のないブーツを軽く払いながらも、その冷めた目は旅人に向いていた。
「あっ……!」
ぱっと左手で顔に触れ、右手で頭を探る……そこにあったであろうフードを確めた。
旅人は青冷めた顔で息をのんだ。
いつからそこは曝されていたのだろう……盗賊に襲われた時か……それとも少年・クロウに連れられ風となっていた時か。
何れにしても王都に着いた時にはそれが人目に付いていた事に旅人は落ち着かず戸惑った。
ざらりとした黄ばんだ布地で左目を頭部から覆って隠している。
あたかも[大怪我]をしているかのように見える。
そんな姿を曝していては誰も近寄ってはこない。
薄汚れた怪我人に好んで関わろうなどと思う者などいない。
声を掛けられては面倒事になると、避けられてしまう姿であると自分で知っていたからフードで覆っていたのに、脱げていた事に気付かなかったとは……情けなくて止まっていた涙がまた零れて落ちる。
「あ……これは……」
左目を押さえて吐き出そうとする──言葉に詰まる。
「いや、あれは──」
「判りました」
それを遮るようにクロウが口を挟むが、それすら青年の声に掻き消された。
「あなたの願いを届けるお手伝いをいたしましょう」
ふいに掛けられた言葉に旅人は視線を上げて直ぐ傍に膝をつく青年を見た。
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