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何を言われたのか直ぐに理解出来なかった。
「あなたをレディ様の元へお連れいたしましょう」
「ちょっ……、マスター?!」
「へぇ~……楽しそう」
青年の言葉にクロウは立ち上がって抗議をし始める。
ナルは凭れ掛かっていた平台から体を起こして好奇の色を浮かべた。
「俺は嫌だぞ!大体どーやって行くんだよ?!ボード壊れてるし、あんなトコっ……」
「直ぐ治すよ。マスター、2、3時間貰っていい?」
「ナル!!」
「鎮まりなさいクロウ。ナル、2時間です。この方は旅立って10日以上経っています……あまり猶予はありません」
旅人の傍から立ち上がって、凛とした口調で二人に向き合う青年は、少しその瞳に影を落とした。
「うん、いいよ」
「い、や、だ!!報酬のない仕事はしないって約束だろ!そいつ文無しだぞ!」
「……クロウ、あなたは既に報酬を頂いているはずでは?」
「ふぐっ!!」
「よろしいですね?この方の願いをレディ様の元へ届け、アスパ村までお連れするのですよ?」
「……ちっ!!」
「「りょーかい!」」
青年の毅然とした態度にクロウは舌打ちをしながら、それでもナルと声を揃えて返事を返すとキッチンの向こうへと揃って姿を消す。
それを青年は微笑ましそうに眺めてから平台の上の盆へと向き合う。
旅人は呆けてその流れを目で追っていたが、平台の上に盆からグラスが移されるのを見て自然と声が吐き出された。
「……あの、あなた方は、一体?」
呟くような問い掛けに青年が優しく笑顔を注ぐ。
手を差し伸べて旅人を立ち上がらせ、倒しておいた長椅子に落ち着かせた。
「申し遅れました、私はこちらで食堂を商っておりますトキと申します」
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