旅人は遠方より来たる

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少年たちに[マスター]と呼ばれていた青年は、名を[トキ]と名乗り、旅人に笑んだ。 すらりと背の高く、白磁のような滑らかな肌。 差し出された右腕には髪と同じ白金の蛇を模した飾りが巻き付かせてある。 他に装飾はないが、その佇まい自体が美しく、常人とは掛け離れて見えた。 「あ……私は、リョクシと申します」 「リョクシ様。あの二人はクロウとナル、この王都で[何でも屋]を商っております」 「何……でも屋?」 「はい、人様の困り事を報酬と引き換えにお請けする生業です」 「ほ、報酬?!」 トキの穏やかな言葉に旅人・リョクシはビクついて背負い箱の肩紐を握った。 「わ、私には何もお支払する金品はっ……!」 焦って怯え、吃るリョクシにトキは首を傾げて〈クスリ〉と漏らした。 「大丈夫ですよ、二人は既に報酬を頂いております」 「……へ?」 「クロウは果実を、ナルは銅貨を頂いております。どちらも依頼に応じる以上の対価です、安心なさってください。二人の準備が整うまでもう暫くの間、リョクシ様はこちらでお寛ぎくださいね」 ニッコリと笑顔を残してトキは盆を手にしてキッチンへと歩いて消える。 またも茫然としてリョクシは長椅子に座った。 トキはリョクシの願いを届ける手伝いをしてくれると言った。 ただの[食堂の主]にそんな事が可能なのだろうか? [何でも屋]を商っているという少年たちとて同じだ。 都で働いているというだけの少年たちと【守護者】と呼ばれる偉い身分の方に会いに行って易々と会えるものだろうか? 無謀にも王都に行き、王宮に赴いて王様に会おうなどと考えていた自分の行いすら浅はかだと思う。 それを見ず知らずの者を巻き込んでまでやり遂げられるとは考えてもいなかった。 ただ、村を救って貰いたいと願っているだけ……叶うだろうか? 非力な自分では何も出来ないのだ。 すがるしかない── リョクシは落ち着くどころか体を強張らせて長椅子に座っていた。
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