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「あーあ、やっぱりマスターはクロウに甘いんだから」
「ナルもお食べなさい。クロウ、これをゲートに渡してください」
「えぇぇ……あいつに?」
「はい、これで開けてくれるでしょう」
「ちぇー……面倒くせぇ」
トキはナルの冷やかしに笑顔で返し、スープ皿をナルの手近な平台に置くと、クロウの傍に来て密封された箱を手渡した。
それを手にしてクロウは少しごねた様を見せたが、諦めて麻袋の中に納める。
ナルは大人しく出されたスープ皿を空にすると「ごちそーさま」と手を合わせて食堂の外へ向かう。
途中でリョクシに対し折り畳んだ布地を差し出した。
「【プレア】には襟の着いた服じゃないと入れないんだ、僕のお下がりだけど洗ってあるからこれ着てよ」
そう告げてから木製扉を潜って出て行く。
手渡された布地を手にして立ち尽くすリョクシを促すようにトキの手が優しく背中に触れる。
開いた扉の向こうからボンッ!と爆発音がしてビクついたが、ニコニコとして動じないトキを見上げ、リョクシは震えながらも言われた通り着替えを済ませた。
外に出ると空は真っ暗で丸い月に一筋の雲が掛かって見えた。
食堂の前の通りには人影もなく静かであったが、噴水と食堂の間の拓けた場所には亀にも見える円形の奇怪な物が鎮座していた。
屋根のないドーナツ型のそれの中でナルがふんふんと鼻を鳴らし、何やらパネルらしいものを弄っている。
「早く乗れ」
その奇怪な物に麻袋をドサリと乗せてクロウが勢いよく反動をつけて飛び乗る。
ドアはないようだ。
リョクシはオロオロとして躊躇していたが、「さあ」とトキに背中を軽く押されてそれに近付き、もがきながら乗り込んだ。
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