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ドーナツ型の奇怪な乗り物はナルの弄るパネルによって操作されるらしく、ピッピッ……と軽快な音を鳴らして左右に付く円柱が横たわる物を振動させた。
「んじゃ、マスター行ってきまーす!」
「はい、お気をつけて……くれぐれも無茶はしないでくださいね」
「「はーい!」」
優しく穏やかな笑みを浮かべて手を振るトキに、明るい返事とともに二人は手を振り返す。
「じゃ、すぅちゃん・3出発!」
ナルの嬉しそうな掛け声に応じるように左右の円柱が爆音を上げて火を吹いた。
地面に噴射された熱風で土埃が辺りに巻き起こる。
トキが口元を手で覆いつつも穏やかな顔を覗かせて見送っていた。
もう一人程は乗り込めそうなそれは徐々に浮き上がり空へと昇っていく。
少しずつ揺らぐ事もなく上昇していくその中で、リョクシは自分が浮いていく事に驚き、鼓動を逸らせて遠ざかる都を下に眺めた。
トキの姿が小さく、見えなくなっていく。
僅かに寂しげな表情を垣間見せていたと思われた顔も、振り続けられる手も暗闇の中に消える。
都の通りを照し点在する外灯も、人の住まう家の灯りもどんどん小さくなり、どちらが空でどちらが地上が判らなくなる。
街中を駆ける夜風よりも冷たい空気が周囲を漂う。
吐き出される息が微かに白く見える。
「あの、レディ様はどちらにいらっしゃるのですか?」
好奇よりも不安が勝る胸中を曝してリョクシは二人に尋ねた。
何処に向かうのか判らないままでは、寒さだけでない体の震えは治まらない。
「んあ?聞いてないのか?」
「【プレア】って言っただろ?レディはそこにいるんだよ」
「……プレア?」
「そ、【空の都・プレア】」
【空の都】────そう告げられてリョクシの鼓動は大きく跳ねた。
三人を乗せたボート・シップは闇夜の中を上昇し、冷たい風の中を軽快に進んでいく。
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