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暗闇の中、丸い月だけが天と地を示す。
太陽がなければただ寒いだけの空間をカポン、カポンと間の抜けた音を出してボート・シップはゆっくりと進む。
「うん、プレアまで1時間ってとこかな」
パネルを弄っていたナルが機嫌良く振り向いて告げてきた。
ボートが上昇し始めると、いそいそと麻袋の口を開いてクロウは果実を取り出しかじりだした。
リョクシは二人を覗き見ながらビクビクと怯え、真っ暗な景色を不安気に伺う。
黄ばんだ布地からはみ出した薄茶色い柔らかな髪が冷たい風に靡く。
左目を隠すように巻き付けたそれを、フードを被って隠す事もないだろうとそのままにしていた。
[大怪我]をしているように見える様でも二人は気にするでもなく平然と接してくれるからだ。
「あーっ!あんまり食べないでよ!それ3日分の食糧なんだからね!」
「大丈夫だろ……んぐ……ドクターに詰めて貰おうぜ」
「ふーん……ま、いいけど」
騒いだわりにナルは特に気にするでもなくすんなりと答え返し、クロウは既に数個目となる果実を手にして口を動かし続ける。
一体どこに入っていくのか、彼の体躯は細く、太って見える部分がない。
目にかかりそうな焦げ茶色の髪がバサバサと風に揺れ、そこから覗く深緑の瞳が微かに震えるリョクシを見た。
「……いるか?」
「えっ?!」
じっとどこを見るでもなく見詰めていたリョクシにクロウが果実を差し出した。
「あ、いえ、私は……」
「そうか」
「クスッ……クロウじゃないんだから。さっき食べたばっかりなんだし空腹じゃないよ」
「そうか?美味しいぞ?」
「……だろうね」
呆れた顔をしてニッコリと笑顔を作って、ナルはまた手鏡を覗いて髪を弄る。
その手鏡は何処から出てきたのか、気付きもしなかったリョクシは二人を不可思議そうに見詰めて縮こまる。
「それ、邪魔じゃねぇの?」
闇夜に視線を移して不安を抱いたままのリョクシに、ふいにクロウが話し掛けた。
静かな何気無い問い掛けに、やはりビクついてぎゅっと両手を握る。
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