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空は晴れた────太陽は東から昇り、吹き抜けのボート・シップのお陰で風を受け、温かな日光とともに涼しく過ごせる。
変わらずボート・シップは間の抜けた音を発し、乗り込む3人は無言のままだった。
クロウは麻袋を抱えて、片手に果実を握り、片手で果実をかじり続ける。
ナルは手鏡を手にして、風の吹く中で首に掛かる黒味がかった灰色の髪を解かし、撫で付け、襟を弄り、鼻歌を奏でる。
リョクシは行き過ぎる変わりのない青い空を眺めて座る。
目線と並んで見える白い月に掛かる細長い雲を、ただ見詰めて動かなかった。
[アスパ村に帰る]───その事が頭にあって他の事が考えられなかった。
空を眺めているとプレアを探して気が紛れた。
空に浮かぶ雲に模した都、探しても見付かる事もない。どの雲がそれなのかも分からない。
特別な種族の住まう場所……2度と自分には開かれる事のない巨大な門……美しい都はリョクシの中で故郷の悲惨さを忘れさせてくれる思い出となった。
〈水を……水さえあれば、村は救われる……賊たちさえいなければ……〉
視線を下げるとやはり村の事を考える。
『ワ・タ・セ』
地を震動させるほどの低く、くぐもった声に背筋が凍る。
暑いわけでもないのに汗が頬を伝う。
膝の上にある両手拳を握り締め、全身を襲う震えから逃れようと試みる。
「あ、マスターに伝言ださなきゃ。ネジの街に降りるよ」
ナルの何気ない澄んだ明るい声に弾かれるように顔を上げた。
────震えが消えた。
ナルは背にしていたパネルに向かいピッピッと音を立ててボート・シップを下降させ始めた。
それを目にしたクロウが「あ……やべぇ」と思い出したように呟いて真剣な表情で押し黙った。
果実をかじるスピードが僅かに下がり、少しずつ眉間にシワを作って進む方向から視線を逸らす。
訝しげにナルが首を傾げたが、その後何も話さずボート・シップは空から地上に向かって進んだ。
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