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私は左足に傷を負った男に水を飲ませた。二人の男を小屋に運びこもうとしたが、意識のない太った男をベッドへ運ぶことは困難だった。見るにみかねたのか、男は足を引き摺り、太った男を抱きかかえるとベッドにどかっと乗せた。
「すまない……」
「いいのよ」
その言葉とともに、血と汗とアンモニア臭が一気に部屋中に漂う。消えたランプの周りを飛んでいた青い蝶は、
窓ごしに止まり、男達の臭いを避けるようにして外を眺めていた。左足に傷を負った男の名はアキラといった。彼は太った男の黒い唇を広げ、ゆっくりと口移しで水を流し込む。だが、水は口から流れ落ちていた。
「何故、自分達はこんな場所へ来てしまったのだろうか……」
「分からないわ。ここは私の夢の中なのです」
アキラは男の包帯を取り替えながら「こいつの顔は見ない方がいい」と言った。「なぜ?」と聞くと「腐りかけている。君なら吐いてしまうに違いない」と初めて白い八重歯を見せた。「私がそんなに弱虫に見える?」と言えば、「ああ、見えるさ」と答えた。彼は額にも深い傷があって、左足の傷はすでに化膿していた。
「何か鋭い刃物のようなものはないだろうか?」
「足、切断するの?」
「ああ、できれば少し手を貸して欲しいのだが」
「でも……」
「嫌なら無理にとは言わない、自分でやるよ」
「いいえ、そういう意味ではなくて……」
「生きる為だからな、仕方がないさ」
アキラは真っ白な歯をむき出しにして笑う。
「祖父から譲り受けた刀があるわ」
「おじいさんか……。自分は両親の顔も覚えていないんだ」
「ずっと一人だったの?」
「ああ、生まれた時からただ何となく一人で生きてきた気がする」
「今は?」
「今は違うんだ。ある人に、『魂の伴侶』の話を聞いたんだ。その相手に一目会いたいと思ってさ。もしかしたら君がそうなのかもしれないな……」
「ソウルメイトのこと?」
「この世やあの世、前世や来世、どの世界でも魂で繋がっている異性のことさ」
「そういう人を今では魂の恋人、ツインソウルっていうのよ」
「ツインソウルか……」
「ええ、確かにそう聞いたことがあるわ」
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