砂漠の青い蝶

6/15
前へ
/15ページ
次へ
私は左足に傷を負った男に水を飲ませた。二人の男を小屋に運びこもうとしたが、意識のない太った男をベッドへ運ぶことは困難だった。見るにみかねたのか、男は足を引き摺り、太った男を抱きかかえるとベッドにどかっと乗せた。 「すまない……」 「いいのよ」  その言葉とともに、血と汗とアンモニア臭が一気に部屋中に漂う。消えたランプの周りを飛んでいた青い蝶は、 窓ごしに止まり、男達の臭いを避けるようにして外を眺めていた。左足に傷を負った男の名はアキラといった。彼は太った男の黒い唇を広げ、ゆっくりと口移しで水を流し込む。だが、水は口から流れ落ちていた。 「何故、自分達はこんな場所へ来てしまったのだろうか……」 「分からないわ。ここは私の夢の中なのです」  アキラは男の包帯を取り替えながら「こいつの顔は見ない方がいい」と言った。「なぜ?」と聞くと「腐りかけている。君なら吐いてしまうに違いない」と初めて白い八重歯を見せた。「私がそんなに弱虫に見える?」と言えば、「ああ、見えるさ」と答えた。彼は額にも深い傷があって、左足の傷はすでに化膿していた。 「何か鋭い刃物のようなものはないだろうか?」 「足、切断するの?」 「ああ、できれば少し手を貸して欲しいのだが」 「でも……」 「嫌なら無理にとは言わない、自分でやるよ」 「いいえ、そういう意味ではなくて……」 「生きる為だからな、仕方がないさ」  アキラは真っ白な歯をむき出しにして笑う。 「祖父から譲り受けた刀があるわ」 「おじいさんか……。自分は両親の顔も覚えていないんだ」 「ずっと一人だったの?」 「ああ、生まれた時からただ何となく一人で生きてきた気がする」 「今は?」 「今は違うんだ。ある人に、『魂の伴侶』の話を聞いたんだ。その相手に一目会いたいと思ってさ。もしかしたら君がそうなのかもしれないな……」 「ソウルメイトのこと?」 「この世やあの世、前世や来世、どの世界でも魂で繋がっている異性のことさ」 「そういう人を今では魂の恋人、ツインソウルっていうのよ」 「ツインソウルか……」 「ええ、確かにそう聞いたことがあるわ」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加