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ザ、ザ、ザーザザー。
リモコンが直らない……また白黒の砂嵐の映像。
電池が切れたとばかり思っていたが、そうではなさそうだ。
カチッ、カチッ。
二日目の夜から私はTシャツとジーンズという姿で夢に出かけるようになった。もう誰もいない場所ではない。アキラが待っているのだ。月と白い息。全てが青い夜だった。私は寒さに凍えながら小屋の中へと急いだ。部屋の隅では片足の無いアキラが「何処へ行ってたんだ?何日間も砂漠を彷徨っていたというのか?」と険しい顔を見せた。
どうやら夢の世界と現実は時間の流れが異なるようだ。
「いいえ、一日だけ、現実という虚しい夢を見てきただけ」
「もう二度と会えないかと思った……」
アキラは私の腕を力強く引き寄せる。濃厚なキス。涙の味?泣いているの……?ランプの揺れる炎は空中に浮かぶ砂埃の絵を緩やかに描いていた。「冷えきっているじゃないか」とアキラは衣服を脱ぎ、私に覆いかぶさる。
暖かな体温が流れてくる。ベッドに横たわる太った男の体からは強烈な腐敗臭が漂っていた。私達は互いの肌を愛撫しながら、まるで時間の流れを鼻から感じるかの様に、次第に強くなる臭いで「今」を確かめているかのようだった。アキラから発する血の臭いが精液と汗の臭いへと変化し、愛を語り合うことも、名を呼び合うこともなく、ただ生きている証を探すように肌と肌を重ね合った。
青い蝶は何もない壁にいくつもいくつもランプの灯りで影を作る。
私達は眠っては死体の臭いを嗅ぎ、温めあっては水を飲む。
そしてまた、抱き合いながら眠る。
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