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電話のベルが鳴った。
「成田化粧品です、奥様ですね?お時間がございましたら、アンケートにご協力をお願いします」
「申し訳ございません、これから外出しますので」
私は声のトーンを変えた。
受話器を置くと、私は黒い本皮のソファーに腰を下ろした。何処に行くというのだろう、魂だけ、 手のひらにでも乗せてベランダから落下させてみようか。
指先を見る。
すでに瘡蓋だらけになった指には薄い皮膚が誕生していて、私はゆっくりと瘡蓋と新しい皮膚を取り除いた。爪を立て、深く、肉が真紅に見えるように、痛めるように、剥いでいく。
痛い。
この痛みはエレベーターのボタンを押すこと以上に刺激的なことだ。自転車や十字架のネックレスと同じ錆びた匂いの血が水溜りのように溢れ出す。時計の針も窓から聞こえる救急車のサイ レンも、隣の男の叫び声も何も聞こえなくなりそうだった。眠りそうになる。
眠るな。
眠ってはいけない。
どくどくという規則的な音が心臓まで届いたとき、テレビのスイッチを入れた。お昼のバラエティ 番組からは笑い声が聞こえ、出演者がマイク片手に何かを話しているようだった。
「あなたはいつから歌手になりたいと思っていましたか?」
「そうですね、お袋の腹にいた頃からですかね」
「不死鳥のようになれたら」
いつかテレビで見た「青い不死鳥」を思い出した。
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