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「ねぇ、俊(しゅん)ちゃん、お空飛びたいって思わない?」
「僕、いつか飛んで見せるよ」
「ほんと?じゃあ私も俊ちゃんと一緒に飛びたい」
幼馴染の俊介は、唯一私の傍にいた人。彼は幼少の頃から足に障碍があった。
「加奈ちゃん、僕達、大人になったら結婚しようね」
「今なら言えるんだ、僕と結婚してくれないか?」
俊介はいつも杖をついているか、車椅子に乗っていて、笑うと笑窪が出来る。瞳は真っ直ぐに 輝き、彼の視線の先にはいつも私がいた。あの大嫌いな太陽のように微笑み、何度転んでも立ち上がり、怪我をしても、風邪をひいても、泣くことはなかった。サッカーのルールを 誰より必死で覚え、車椅子でボールを操るようにもなった。筋肉質な腕に似合わず、指は長く 滑らかで、腕の太さは私のウエストと変わらなかった。せめて大きな痣があちこちにできていた のならまだ好きになれたかもしれない、優しく彼に接することができたかもしれない。
私はいつも彼の傍にいることを選んだ。幼少の頃から彼の傍が一番目立たない場所だと無意識のうちに感じていたのだろう。
「俊ちゃんはピアノの上手な人になるの?」
「加奈ちゃん、なってほしい?」
「うん」
「ピアニストのあなたは嫌いだわ」
「ショパンだけは嫌いになれないと言ったじゃないか」
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