風呂場を占領した女

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風呂から出ると、俺は濡れた髪をも拭かず、さっき買ったビールを蹴飛ばし、急いでベランダに向かった。窓を開けると、暖かな風が俺の濡れた髪に届き、そこには玲子が一番気に入っていた筈のエルメスのスカーフが敷かれていた。四隅には風で飛ばされないようにする為か、丁寧に小石が並べられていた。そして中心には綺麗になり、眉毛が片方曲がって生えてしまったアヒルちゃんがちょこんと座り、ニコニコと微笑んでいた。 玲子は「早くお昼寝しなくちゃねー」と言いながら、手際よくフトンを敷き、全裸のまま横になった。 「ねぇ、祐二、どう?やっぱり下手くそだったかなぁー。でもね、私なりに一生懸命描いたの」  青い空には雲ひとつなかった。太陽に照らされ、再び睡魔が襲う……。 (とてつもなく不細工だ) 「え?今、何か言った?」 「いや、アヒル、可愛いなーと思ってね」  俺は転がっていたビールを一口飲み、玲子の手を握る。玲子は俺の手の甲に柔らかな頬をすりつける。電車の騒音とともに優しい風が部屋中に流れ込んでいた。幸福荘の俺はもしかしたら不幸そうなだけで、ものすごく不幸すぎるのかもしれない。そうなってくると、一回回って幸福だ。いつかこの手を離す日が来ても、とにかく今はこの小悪魔にとり付かれたまま眠り、夢を見るのだ。俺の風呂場と、俺の心の全てを占領した女は、やっぱり少し……ニコニコ微笑む俺のアヒルちゃんの曲がった眉毛は永遠に消えないでほしいのかもしれない……zzz……。    了
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