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正直、玲子の身体は後回しにしようとさえ思っていた……いや、後回しでいいわけがない、どうにかせねばなるまい、俺の風呂場をあの小悪魔は占領しているのだ。玲子の身体を犯すのが先か、風呂場を取り返すのが先か、はたまたプカプカ浮かぶアヒルちゃんを守るのが先決か、今の俺には全く分からない。どうやら思考能力が鈍りすぎたようだ……それより俺の風呂だ、俺の風呂場だ、ここは俺とアヒルちゃんの聖地なのだ……。玲子はシロガネーゼと呼ばれる白金台に住む人妻だ。俺と十年前、初めて出会った時は処女だった。だがこれだけ長く付き合っていたのにも関わらず、俺に一言の相談もないまま、あっさり青年実業家と結婚してしまった。結婚したのだから俺は別れるのが当然だと思っていたが、玲子は初めからその気がなかったらしい。俺はそれを知らずに何ヶ月も一人で泣き暮らした。たかが警備員の俺では玲子の親父の借金と入院費を払い続けることなんて不可能だった。俺は自分の無力さを呪いながら、おそらく浴槽一杯分の涙は流したに違いない。玲子が幸せになれるなら……と俺は泣いたのだ。それなのに……だ、この女は何事もなかったようにひょっこりと現れ「久しぶりー祐二」と言いながら、満面の笑みを浮かべ、普通にキスをし、普通に俺の首に腕を回した。唖然と突っ立っていた俺に玲子は「祐二のそういう顔、きらーい。祐二の顔してよー」と訳のわからないことを言った。俺は玲子の不倫相手になり下がり、セフレになり、玲子は俺の恋人とはもう呼べない存在になり、俺の十年来の元カノになり、今はナイスバディを武器にする風呂場を占領している小悪魔だ。
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