風呂場を占領した女

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今の俺からしてみれば、幽霊よりも恐ろしい、魔女だ。息子よ、起て、起つんだ、あの悪い女を犯してやる……金と女と俺の人生と風呂場とプカプカ浮かぶアヒルちゃんと睡眠を占領した、あの女を……。 「裕二、来ないのー?来ないなら鍵閉めちゃうよー」  俺はフラフラと台所で服を脱ぎ、風呂場のドアを開けようとした。だが、開かない。何ということだ、信じられない……本当にこの女は鍵を閉めやがったのだ……。 「嘘よーびっくりした?早くおいで。洗ってあげるからー」  再びドアがガチャンと開き、そこには想像もしていなかった光景が広がった。黄色がない……、白だけだ、浴槽とシャンプー類と、玲子の肌の白だけだ……愛しのプカプカ浮かぶアヒルちゃんがいないではないか……何てことだ、何処だ、何処にいるんだ、俺のアヒルちゃん……気が狂いそうなのを必死で堪え、俺は風呂場中を目で探し回った。だが見当たらず、玲子の裸体ばかりが目に飛び込み、もう立っていることさえ出来ず、へなへなと座り込んでしまった。玲子は浴槽に浸かったまま、しきりに「どうしたのー?」と俺の頭からシャワーをかけ始めた。もう、おしまいだ、いっそ泣いてしまおうか、涙を流してみようか……俺はこの女にアヒルちゃんまでもを奪われてしまったのかもしれない……明日から俺も「あの幸福荘の住人ってみんな不幸そうよねー」と噂される仲間に加わるのだ。
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