137人が本棚に入れています
本棚に追加
「…まあ、よいだろう。
確かに、お主ら夫婦が決めたことに
私があれこれと口を出すことはできまい」
忠興は、秀満と奏が部屋を出て行く間際、ぼそりと呟いた。
「…だが、細川家に迷惑のかからぬように上手くやってくれることを祈る」
「ーーー結局、自分の家の保身が最重要ってことなんでしょうね!」
忠興の部屋を出た後、奏はぷりぷりと怒りを吐露しながら廊下を歩いて行った。
「そう怒るな。
お家が一番であることは、他の武家も皆変わらない」
「でも!あんな言い方ってないですよねえ?」
「だが、忠興殿は大きな支援をしてくれるようだぞ」
「大きな支援?」
二人が荷物をまとめ上げ、門へ向かうと
入り口には一頭の馬が括り付けられてあった。
「この通り、馬を一頭貸してくれた」
「ふうん…そりゃ、旅は楽になるかもしれませんが、
これが大きな支援だとでも?
私はてっきり、食料をくれるか、
護衛の方をつけてくれるのかとーーー」
「馬鹿を言え。
馬はそんなものよりもずっと高価なものだ。
数日分の食料や、信頼関係の薄い家臣を貸されるより
よほど良いものをくれたものだ」
「酷い!
秀満さんまで人のこと馬鹿にして…!」
「そもそも俺たちは自分の力で秀吉の元へ直談判しに行くつもりで決意したんだろう?!
手助けしてもらえるだけありがたいと思えんのか?」
「話をすり替えた!
そんなことより私に馬鹿って言ったことを謝ってください!」
二人がぎゃあぎゃあと揉めていると、
そこへぬっと玉が姿を現した。
「ーーーって、わっ!玉」
奏が驚いて振り向いたが、玉は奏の様子など気にもとめず
つかつかと秀満の方へ歩み寄って行った。
「ーーーお姉様。
少しの間、秀満殿を貸してくださらない?」
「え?ええと…」
「さ、秀満殿、こちらへ」
奏が返事をする間も無く
玉は秀満を屋敷の影へと引っ張って行ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!