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「…さようなら」
私は水の中へ身体と意識を沈め、生きることと決別した。
ーーーと、思っていた。
『…デ…カナ…デ…』
「…え…?」
誰かに呼ばれる声で、私は目を開けた。
そこは真っ白で、何もない世界。
ーーーああ、本当に死んだんだ。
死んだら無の世界だ、なんて聞いたことがあるけど
あながち間違いじゃなかったみたい…
『ユムラカナデ』
「?!」
今度こそ、はっきりと聞こえた。
「誰…ですか?!」
『ユムラカナデ。
お前は自分の命を投げ出した。
よって報いを受けなければならない』
『声』は、私の問いには答えなかった。
「報い…?」
『お前はこれから輪廻転生を果たす。
ある時代の、ある人物としての人生を生きよ』
「ーーーえ…」
輪廻転生…?
何が、どうなっているの…?
戸惑う私の心など構わず、『声』は淡々と続けた。
『お前はもう一度、新しい命を生きる権利が与えられた。
ーーー但し、転生した後の人生では
前の人生でお前が持っていた
一番大切なものを失うこととなる。
それが、お前が自らの命を絶った代償だ。
お前はその代償の重さを知り、
苦しみながらも、もう一度自身の生と向き合ってみよ』
「待って下さい…!
何のことか、さっぱり分からないです!
新しい命って…
私が私でなくなるならば、新しい人生を生きたって意味がない!
他の人に生まれ変わったって
私でなくなるのならば…っ」
私は声を枯らして叫んだが、『声』はやはりこちらの言葉に反応することはなかった。
私が再び口を開こうとした時、
真っ白な世界に鋭い光が走った。
「?!」
私は、何が起こったかを確認することすらできないうちに
意識を手放したーーー…
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