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「は…はい…?」
奏は訳が分からず男を見上げた。
「あの、私は湯村奏と言います。
あなたが私の夫って、どういうことですか…?」
「ユムラカナデ?
何を言っている。
死を前にしていよいよおかしくなってしまったか…」
男はふうっとため息をつき、自身もその場に座り込んだ。
「あ…あの!
さっきから、お倫とか…
それとこの場所といい…
一体何が起きているんですか?」
「お倫…この僅かの間に、本当に人が変わってしまったようだな」
「だからっ!
私はお倫って方ではないですってば!
それと、ここも初めて来た場所で何が何だか分からず困ってるんです!」
「…は?」
男は奏の話すことの何一つ理解できないといった様子で首を傾げている。
「よもや、今の間に記憶が消し飛んだのか…?」
「だからーーー」
…どうしてこんなことに…
奏は必死で頭を働かせた。
ーーーよく分からないけれど
とにかく普通じゃ考えられないことが起きている。
目の前に甲冑を着た男!
私は今、この男に殺されそうになった!
それだけは、すぐに理解できた。
「…どうして私を殺そうとしたんですか?」
奏が聞くと、男は困ったように腕を組んだ。
「…落城間近のこの時に、ゆっくり話し込む暇はないのだがな。
お前が仮に記憶を失ってしまったのだとしたら
今のまま死なせてやるのは忍びない。
ーーー死に土産に、これまでのことを聞かせてやろう」
落城?死に土産?
奏は不穏な言葉に頭がショートしそうになったが、
とにかく今の事態を飲み込むため、黙って男の言うことを聞くことにした。
「まず、お前の名は明智倫。
そしてお前の父である明智光秀様は、
10日ほど前に京の本能寺にて織田信長を襲撃したのだーーー」
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