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今朝はすがすがしい風が吹いていた。庭先では祖父が自慢の盆栽の手入れをしていた。
祖父も祖母も今年で米寿を迎える。両親を交通事故で早く失った私にとっては親も同然だ。毎年お盆と正月には帰省しているが、二人とも少し見ない間に随分歳をとった様に思う。
祖母が氷を敷き詰めた皿に桃を乗せて運んできた。
「直美、おあがり」
祖母は着物が似合う。この村でも普段から着物を着ているのはおそらく祖母だけだろう。首元は皺だらけではあるが、淑やかな仕草は色気さえ感じ取れる。私も祖母のように歳を重ねることができるのだろうか。
桃は一口サイズに切られており、皮は剥かれていなかった。この辺りで採れる最高級とされる桃だということが一目でわかる。採れたてで、Aランクとされる桃は皮ごと食べる方が美味しいのだ。私の為に重い足をひきずりって、わざわざ市場まで買いに行ってくれたに違いない。
「慶介の結婚式には直美、行くんじゃろ?」
祖母は爪楊枝を私に差し出しながら言った。
「でもハワイで挙式だけなんて、村の人達、何て思ってるのかなぁ?」
「直美が気にすることじゃないさ。まぁ、確かに文句を言う人もいるけどなぁ」
「大家のとこ、よく許してくれたね」
「おじいさんは怒鳴られたらしいけどね、上手く説得できたみたいだよ。可愛い慶介の為だからね。いまどきの若者スタイルとかって言ったらしくてね」
「じいちゃん、やるねー。普段は無口なくせに」
「それより慶介はおまえのこと、気にしてたよ」
「私が結婚に反対してるのは何故かってことでしょう?もう聞き飽きたわ」
「ああ、あんないい嫁さんは他にいないだろに」
「私もそう思うけど、性格が合わないだけなの」
何度もついた嘘。
でも慶介兄ちゃんのお嫁さんになる人はもっと嘘つきなんだ。
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