第1話

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ある昼下がりの内裏の回廊。 頼爾と信爾は揃って陰陽寮へと向かっている途中。 ある声に呼び止められた。 「おや、これはこれは…陰陽頭の大事なご子息ではないか」 下卑た声。詩合に向かう公達だった。 ご子息、と言いつつも、目線は頼爾しか見ていない。 「本日の詩合にはおいでになるんですかな?」 どこからか、それはないだろと含み笑いが聞こえる。 「おや、おいでにならないのですか。これは残念」 ふふ、といやらしく笑い、公達は頼爾に向けて何かを手渡した。 兄、頼爾を良く思わない者達が、何やら動いているのもわかっていた。 ーーけれどこれは。 大輪の花が描かれた優美な扇。淡い紅に乗せた金箔が何とも美しく、艶やかだ。 しかしそれは、誰がどう見てもおなごの物だった。 それが頼爾の手に渡った瞬間、低いさざめきのように笑いが起こる。 思わず立ち上がろうとした信爾をやんわりと止め、頼爾はゆっくりと立ち上がった。 「あ、兄…」 まさか、ここで一悶着起こすのではと不安が過ったが、頼爾の表情は穏やかで、自信に満ち溢れていた。 たん、と一足頼爾が強く踏み込むと、渡した首謀者であろう男達がびくりと肩を震わせた。 (恐れるぐらいなら、何もしなければ良いのに) 思わず呆れてしまうほど、男達の姿は浅ましかった。 全ては、兄を辱しめようと企んだ罠なのだ。 大勢の前で騒ぎを起こせば当然父の顔に泥を塗ることになる。それを知っていて、むしろそれを狙って渡したのだ。 頼爾は、踏み込んだ足をすうっと滑らせ、足と反対の手をゆっくりと挙げた。
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