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「……に、にげて…頼ちか、さま」
掠れた声がやっと出た。
それを見て、惺寛がにこやかに微笑む。
「へぇ、声も出せるの。すごいねぇ。
私の魅了にかかって声が出せた妖は、初めて見たよ」
朱華色の瞳は、灯籠のように輝いていた。
(ーーああ、この人は)
好奇心。子どものように、底知れぬ好奇心で動いているんだ。
もしかしたら、悪いことをしている自覚すら、ないかもしれない。
「…悪いことは、しているけれどね」
見透かすように、惺寛が呟く。
「けれど、私は満たされる。人が困惑して、助けを求める。
……私は、必要とされるのだ…」
美しい朱華色に、灯籠の色が混じる。溶ける。
惺寛はゆっくりと頼爾に近づいた。
悠羅と交じわせた刃を、指先で撫でていく。
「…あなたを、独りにしたかった。
妖と人間が混じったものが、平穏に生きていけるなど…認めたくなかった」
「…私を、知っていたのか」
「妖の間じゃ、有名だからねぇ」
ころころと笑う。その姿は、童子のようだ。
「……まったく。厄介な奴だな…」
低く頼爾が呟くと、悠羅の刀を抑えたまま、ふいと悠羅の鼻先に顔を近づけた。
(え…)
そのまま、頼爾の唇が、確かめるようにゆっくりと悠羅の唇に触れた。
「おや」
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