風波

23/27
前へ
/79ページ
次へ
真火は、珍しく燃えるような真っ直ぐな瞳をして惺寛を見つめていた。 いつもと違ったその様子に、惺寛は躊躇った。 「あ、真火さま…?いかがなされましたか?」 ははは、と笑ったその声は、空々しく消えていく。 真火は、返事をせずにそのまま惺寛の目の前へと歩みを進める。 「ま、真火さん…?」 その場にいた皆が、戸惑っている。 けれど真火は、強い意思をした瞳でじっと惺寛を見つめて、そしてーー すうっとひとつ、息を大きく吸った。 「惺寛さま!」 「はっ、はいっ!?」 「いけません!こんなことをしては!」 「へ」 真火はそこで、きゅっと唇を結んだ。 「…みんな、貴方を信じていたんです。貴方は、妖の気持ちがわかるから。 私も…ですけど、みんな信じて、ここの辺りの妖は、皆穏やかでいられたのに」 「貴方が退治した妖は、妖のなかでも悪さをしていたひとばかり。 良いひとがとばっちりに遭わないよう、裏で逃がしてくれていたでしょ…?」 真火の言葉に、惺寛はばつが悪そうに眉間に皺を寄せた。 「だから頼爾さまも、あんな態度を…?」 悠羅が思い至ったように頼爾を見つめた。 「…こいつの狙いが、いまいちわからなかったからな。 ただ、妖を取り込んでなにか企んでるとしたら、厄介だから、様子を見ていたんだ」 「……わかってたんだ」 惺寛はため息をついた。 その瞳に、覇気はなかった。 「偽物は、本物になれないって」
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加