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「にせもの……」
真火が、邪気のないくるくるした瞳で惺寛を見つめる。
惺寛は、大きなため息を吐いた。
「法師なんて、嘘なんです。なまじ妖を操れる力があるせいで、ろくなことはしてこなかった…」
「泡沫なんです、私は」
そこまで言って、薄く微笑んだ惺寛の唇に、信爾の指が触れた。
「…だめです、そんなことを言っては。
言霊って、知っていますか、惺寛さま」
「信爾さま……」
「貴方は、泡沫ではありません。しっかり意思のある、立派な方です。立派な、法師さまです」
信爾は、一つ一つの言葉に力を込めた。
すると、指先が仄かに光り、惺寛の唇を伝って口の中に消えていく。
「…な、なんだ…?熱い…」
「惺寛さまは、私たちに必要です」
吸い込まれた光は、惺寛の胸元の中から膨れ上がるように湧き出した。
「な…、なんです、これは!」
「これが、信爾の力だ」
頼爾が低い声で応えた。
熱く感じた光は、じんわりと柔らかな温かさに変わっていく。
気づけば惺寛は、涙を流していた。
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