8人が本棚に入れています
本棚に追加
「は……ははっ」
頬に伝う涙を拭いながら、惺寛は笑った。
胸に広がる温かさに、涙が溢れて止まらなかった。
ーーもう、苦しまなくていいんだ。
長年つかえていた苦しみが、ほどけていく。
満たされるような、それでいて空虚のような、不思議な感覚に笑いが止まらなかった。
ずっとここに居たくて、逃げ出したい。
相反する気持ちが心地良い。
「…これが……心か…」
ふぅ、と落ち着いたときに口から出たのは、そんな言葉だった。
頼爾の大きな手が、惺寛の肩をさすった。
「貴方が、妖であるのに自分を見失わないのは、信爾さまのお陰なのですね…?」
「……そうだな」
頼爾は優しく笑った。
「……初めて見ました、そんな顔」
ふふ、と笑って大きく息を吸った。
そして、頼爾、信爾、真火、悠羅、順に顔を見た。
皆、優しい笑みをたたえている。
惺寛はゆっくりと深く、お辞儀をした。
最初のコメントを投稿しよう!