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そうして顔を上げたとき、初めて真っ直ぐに、人の顔を見たと思った。
信爾の瞳は実直で、湖の水面のようにキラキラしていた。
それからゆっくりと、頼爾、真火、悠羅の瞳を見遣る。
皆、同じ瞳をしている。
そう思ったとき、なぜか無性に羨ましくなった。
この人たちには、自分の知らない時間がある。
いくら手を伸ばしても、届くはずのない時間。
「……どうした?そんなに見つめて」
頼爾の声で、はっと我に返った。
気づけば術にかかっていた人たちも目を覚まし、辺りがゆっくりと動き出していた。
「さぁ、惺寛さま」
真火がにこにこと惺寛に手を差しのべた。
「こっちですよ!」
悠羅も少し先で手を振っている。
「さぁさぁこちらへ」
わけもわからず胡坐に座ると、清らかな笛の音が響いた。
見ると信爾が伸びやかに笛を奏でている。
ーーそして、するりと扇が舞った。
「……っ」
思わず息を飲むほど美しい舞を舞うのは、頼爾だった。
笛の音に続き、鼓や太鼓の音も鳴り響く。
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