石榴の実

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山々は薄桃色の、煙るように桜が咲き誇る季節。 遅い春に目を細めていた沫津己は、ふとその白い手のひらを空へと伸ばした。 「…おや。花びらかと思えば…」 沫津己の手のひらに舞い降りたそれは、音もなく消えていく。 「雪…ですか?」 驚く東雲に、沫津己はふふっと笑った。 「なに、珍しいことではない。けれど、こういうときは…あれが出るかもしれぬのぅ」 「あれ…?な、なにが出るんですか!?」 身構える東雲に、沫津己はひらひらと手を振る。 「なぁに、お前や私には脅威にもならぬ。 それより、花びらと風花の共演じゃ。楽しもうぞ?」 沫津己から差し出された手を恐る恐る繋いだ東雲は、そのままくるくると一緒に回った。 「わっ、わわ!沫津己さまっ」 「はははっ!春じゃ春じゃ~!」 笑顔でくるくる回る沫津己に、つられて東雲も笑顔になっていた。 「楽しそうだねぇ」 遠くで戯れる二人の姿を見る常磐に、ゆっくりと声をかける者。 「…妬けてしまうね」 どこか憂いを帯びた目で微笑む、沫那己だ。 「……それは、どちらにですか?」 寡黙な常磐の問いに、沫那己はククッと笑った。 「珍しいね、君がそんなことを気にするなんて…… そうだなぁ、私は欲張りだから、どちらもかな?」 「それは……厄介ですね」 ぶっきらぼうに返される言葉にひとしきり笑ったあと、沫那己は優しく微笑んだ。 「それでもね、嬉しいのが勝ってしまうね…。この、平和な日々が、 この私が、日の光を浴びられることが、何より嬉しい……」 そう言って、空を見上げる沫那己の首筋に貼りつく鱗は、キラキラと光っていた。
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