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悠羅にせっつかれるまま邸を出たが、どうも足取りが重い。
「はぁ…どうしよう…」
こんなことなら、あのまま勢いで真火に持ちかければ良かったのだ。いや、勢いというのも違うか…?
「好きなことには変わりはないんだけどなぁ…」
はぁ、とため息を吐くと、また心が重くなった。
この距離が、変わってしまうのだろうか?
もっと近く、近く…それは、とても幸せで、怖い。
自分のそばにいる彼女は、同じでいてくれるだろうか。
自分は彼女を、幸せに出来るだろうか。
「信爾さま!」
明るい、かわいらしい声。
顔を上げ、目が合ったとたんに全身に走る痺れ。
「あっ、真火さん…!」
「珍しいですね?この辺りを歩いているなんて」
顔にかかる一房の髪の毛を耳にかける仕草。
はにかんだような笑顔。
頬に落ちる睫毛の影。
すべてすべて、狂おしいほどに愛しいと思える。
「……信爾さま…?」
「わ、私と…ずっと、一緒に居ては貰えませんか、真火さん」
「え…」
「その…さっきはあんな形になってしまいましたが……
か、家族に、なりま…しょう」
頬が熱いような、脂汗が滲むような、身体の反応もおかしい。
もう、おかしくなりそうだ。
「信爾さま……」
真火は胸の前で握った手を、躊躇うように信爾の手に重ねた。
「あ……は、はい…私で、良ければ…」
消え入りそうな声でそう言うと、俯いてしまった。
信爾は驚きと喜びで、ぶるっと震えた。
そして、そのままぎこちなく、真火を抱き寄せた。
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