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その瞳は、まるで幼子のようだった。
この場所にも、周りにいる人たちにも警戒し、怯えている瞳。
「さ…信爾…?」
恐る恐る呼んでみたが、それすらも信爾を戸惑わせただけだった。
「だ、だれ……」
途切れた声は消えそうに小さい。
頼爾が一歩踏み出そうとすると、びくっと身体を震わせた。
「ーーだいじょうぶですよ」
優しく、やわらかい声がその場の空気を変えた。
真火だ。
さっきまでは戸惑っていたが、信爾の様子を見て気持ちを切り替えたのだろう。
いまではその表情はどこまでも優しかった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶですよ。さねちかさま」
敢えてゆっくりと話し、優しく信爾の手をさすった。
怯えていた信爾の肩がすとんと落ちた。
「……さね、ちか…」
「あなたのお名前です」
にっこりと静かな声で真火が囁く。
「わたしは、真火と言います」
「真火……」
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