石榴の実

15/18
前へ
/79ページ
次へ
それから二日が経った、三日月の夜だった。 紫香が弱々しくそっと襖を開けた。 「…戻ったか」 すでに寝所で休んでいた頼爾は、その気配にすっと身体を起こした。 そのまま月明かりの下にいる紫香を見つめ、囁きのような声を聴いた。 「……なに?沫那己が…?」 悲しげに、縋るような瞳を残して、紫香は花びらの姿に戻り風に流れていった。 「そうか……」 頼爾は一人頷くと、襖の隙間から覗く月を見上げた。 煌々と光る上弦の月だった。 その光は、夜中とは思えないほどまばゆく輝いていた。 頼爾は浅くため息を吐くと、そばにあった小さな鈴を鳴らした。 「…頼爾さま。紫香が戻ったのですね」 どこからともなく猫の姿で現れた悠羅に頷くと、躊躇うように口を開いた。 「……なるほど、わかりました。 しばしお暇を頂きます」 悠羅の瞳がきらりと輝いた。 「…そのかわり、信爾さまのお世話、お願いいたしますね」 悪戯っぽく笑う悠羅に、頼爾は仕方がないというように首を縦に振った。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加