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それから二日が経った、三日月の夜だった。
紫香が弱々しくそっと襖を開けた。
「…戻ったか」
すでに寝所で休んでいた頼爾は、その気配にすっと身体を起こした。
そのまま月明かりの下にいる紫香を見つめ、囁きのような声を聴いた。
「……なに?沫那己が…?」
悲しげに、縋るような瞳を残して、紫香は花びらの姿に戻り風に流れていった。
「そうか……」
頼爾は一人頷くと、襖の隙間から覗く月を見上げた。
煌々と光る上弦の月だった。
その光は、夜中とは思えないほどまばゆく輝いていた。
頼爾は浅くため息を吐くと、そばにあった小さな鈴を鳴らした。
「…頼爾さま。紫香が戻ったのですね」
どこからともなく猫の姿で現れた悠羅に頷くと、躊躇うように口を開いた。
「……なるほど、わかりました。
しばしお暇を頂きます」
悠羅の瞳がきらりと輝いた。
「…そのかわり、信爾さまのお世話、お願いいたしますね」
悪戯っぽく笑う悠羅に、頼爾は仕方がないというように首を縦に振った。
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