涙で濡れた白いワンピース

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 僕は誘拐犯だ。捜索願が出でいる女性、しかも人妻を別荘に連れ込んでいるのだからそう呼ばれても仕方がない。彼女に「私を連れ去って」と言われた訳でもなければ、相思相愛で駆け落ちした訳でもない。彼女が僕を愛していないことは事実で、僕が彼女を愛しているかと言えば、それは自分自身でもわからない。   窓も開いていないのに、何処からか風が流れてきたかと思った。 彼女は今、僕のベッドですやすやと寝息を立てている。安らかな顔をして、どんな夢を見ているのだろう。ただ、それを眺めているだけで僕の呼吸と血液は緩やかに流れるのだ。 僕が彼女と出会ったのは、ちょうど今から一年前のことだった。デザイナー兼イラストレーターとして活躍する僕は職業上パソコンに向かうのが日課であった。ネットサーフィンも暇さえあればやっていたし、出会い系際とや、チャット、掲示板に出入りすることも多かった。明日の空気も、雨の日のカーテンの匂いもの変わらない、何の変哲も無い、毎日。そんなある日に、僕は偶然彼女のサイトに出会った。自作の小説や詩を掲載していたが、正直文章は幼稚としか言えず、僕だけではない他人から見てもそれは明らかだと思われた。だが彼女の書き込みや、言葉の端はしから、彼女に深い悲しみがあるとように思えた。 「ストレスによる肌のトラブルを起こしてしまいました」 「カウンセリングに行くのが怖い。誰も私に気付かないかもしれない」 「目に見えない鎖で縛られ、私は自ら死を選択する前に殺されるに違いないのです」 彼女の日記に潜む、暗く重たい影はその一言一言に載せられ、まるで水中で溺れ、もがいているかのように、やっとの思いで記されていると感じた。 いつだったか、あれは。そう、赤い太陽が緑色に見えた日だった気がする。事務所の先輩が僕の肩に手をかけ「自分史を書いてみないか」と言った。もうかれこれデザイナー兼イラストレーターとして活躍している僕はその依頼をすぐに断った。確かに多くの職業をこなしてきたし、様々な出会いも多かったほうだと思う。人より面白い人生を送ってきたといっても過言ではない。愛され、愛した女性も両手では足りない。
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