涙で濡れた白いワンピース

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「僕の電話番号を教えますよ」 彼女はすぐに返答した。 「ごめんなさい、リアルでの出会いは求めていないの」 「そう言うと思ったよ、冗談だから気にしないで」 「ブレーキが利かなくなるのが怖いから」 その会話の後、彼女は突如ネット上から姿を消した。サイトの掲示板も日記も全て同じ日付のまま、更新されることはなかった。忙しいからなのだろう、僕はそう考えることにした。だが、日が経つにつれ、それだけの理由とは思えなくなった。真珠のような涙が脳裏に浮かぶ。それから約一ヶ月後、彼女から一通のメールが届いた。 「お久しぶりです。お元気ですか。私は早朝散歩を始めました。千草台公園というアジサイの花が綺麗な公園です。朝は気持ちがいいですよ、まだおひさまは出ていません。お気に入りの白いワンピースを着ていくことにしています。お体にはくれぐれも気をつけて」 それだけだった。 僕の住むマンションから一駅の場所に彼女の家はあった。それだけでもこの広い世界の運命的な出会いなのかもしれないと、震える程に驚いたが、偶然と偶然が重なることもあるのかもしれない。  その公園には何度もスケッチをしに足を運んだ経験がある。僕は彼女に会ってみたいという衝動に駆られたが、その気持ちをすぐに否定した。彼女の「リアルでの出会いは求めていない」との言葉が脳裏から離れなかった。 それからの僕は六月に入った頃からいつも気だるさを感じるようになった。ここ何年も深夜まで仕事をこなす事が多く、普段の就寝時間は深夜三時頃が多かった。いつものように睡眠をたっぷり取り、お昼過ぎに起きても夢の中にいるような感覚が続いた。 僕がベッドに入る頃、彼女は散歩に出かける。僕はしばらく眠れずに窓の外を眺めるようになっていた。次第に目の前がぼやけてくると、ほのかに光る、白いワンピースが見える気がした。
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