浜辺のなくしもの

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 休む間も無く次の焼きそばに取り掛かる。この気温のせいで、温かい物のオーダーが一気に増えた。あれ? コテはどこだっけ、菜箸だったかな? またなくした? 「流しの横のところにあるよ」 「あ……はい、あざっス」 「さて、一つ目の願いは叶ったが、これで女の子との出会いは遠のいたのぅ」 「え? なんでですか?」 「そりゃこんな気温で海に行こうという酔狂な女子はおらんじゃろ」 「そう言われれば、そっスね。まぁでも、どうせ熱い中焼きそば作ってても出会いなんて無かったわけだし」  麺を袋から出して鉄板にバラ撒きながら、寒くなってお客さんが減ったらバイトを辞められるな、と思った。 「そんな事はない。夏のままなら、女の子と出会う可能性はあったぞ」 「うっそ!」 「儂の権能では未来の事は分からんが、ある、か、無い、かの可能性ならわかるんじゃ。そもそもなくし物というのは物がある状態と、ない状態の重なり合いによる存在の可能性を探し主が観測する事によりどちらの状態かが確定されるとい――」 「そんな事より! 女の子と出会えてたの?」 「可能性としては、あったよ」  お爺さんは、なくし物の深奥を教えてやろうと思ったのにとかなんとかブツブツ言っていたが、それどころじゃない。 「え、じゃああんな願い事しなきゃ良かった!」 「まぁ、出会いの可能性だけから考えると、そうじゃの。あのまま、真面目にバイトを続けていれば、の」 「マジかー。あ、そうだ! じゃあ2つ目のお願いで、さっきのお願いをなくして欲しいッス……あー、でもそれだと単にプラマイゼロで、損した気分になるなぁ。えーと、お爺さんと出会った事実をなくしてくださいよ。そうすれば、1つ目の願い事もなくなるし、記憶もなくなって悔しい思いもしなくて済むし。で、3つ目の願いで、僕がこの夏、このバイトを辞める事をなくして欲しいッス!」  これで、なにもかもが元通りに戻ってバイトを続け、可愛い女の子との楽しい未来が待っているというわけだ!
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